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『馬』





       

 

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やぁ、お疲れさん、待ってたんだ。雪融け水で大変だったろう。
で、例のもの、あの雪渓の向こう側だ。ここにいてもにおうだろ。
最初は俺、死んだ後に禿げワシかなにかに、体をついばまれたのかと 思ったんだが、間違いだった。
あ、ごめん、ごめん、疲れてるだろ、こんな 山奥だもんな。
まずは座って、あ、それ広げるとイスになる、そう。 いまコーヒー沸かすから、待ってて。
タバコはその缶の中。まぁ座ってて。 コーヒーおかわりどぉ、 タバコいいよまだあるから。
で、一休みしたらあれをみてみないか、 陽の高いうちに。
あっ、急がなくていいよ、ゆっくり飲みなよ。
どう、研究室のみんな元気でやってる? センセは?そう、相変わらずだなぁ。
本当は、みんなに知らせるべきなんだけど、ものがものだからなぁ
フィールドワークの永い君に見せてからと思ったんだ。
彼とはうまくいってる? あっ、ごめん、別れたんだよな。ごめん。
まずは、歩きながら経過説明。最後に君に連絡したときは、まだ半分凍ってた。
で、一日半たった今、完全に融けちまった。
あれを入れとく冷蔵庫も無いし、この馬鹿陽気だろ、お天当様のきまぐれ? 
あぁ、温室効果ってやつね。
まったくいま何月だと思ってるんだ、あっ、そこ滑るよ、気をつけて、もうすぐだから。
あれは大体、そうだなぁ、5千年から1万年位前の氷河に閉じこめられていたと俺は思う。
君の意見を聞きたい。
あっ、意見は現物を見てから、そうだよね。
で、俺の意見ではあれはこの前、いきなり融けて大洪水を起こしたあの氷河の一部だったと思うね。
氷河があったのはそこの河の上流だし。解凍の仕方が悪かったね。
そ、急速解凍。融ける前は、かなり保存状態はよかったはず。 そのままで発見したかったね。
いままで調べて、解ったことは、まってね。 メモ出すからね。
なに、なんか落ちた? お札だよ。いろんなもんと一緒くたにつっこむから、これでよく金をなくす。
で、あれは馬です。奇蹄目ウマ科。 足の指でこれは確定。
奇蹄目の中でもバク科、サイ科とくらべて、他の身体的特徴から、あれは馬です。
クアッハマウンテンゼブラか、またはその亜種かと、最初おもったけど、年代的におかしいし、メソヒップス、多分それはないよなぁ、 からだの大きさが違う。ほとんど現在の馬と体長は同じだもんなぁ。
手持ちの顕微鏡で比較的腐敗の少ない皮膚組織を観察したんだが、あれは アルピノです。色素がほとんど無かったです。で、他の特徴はと、
あっ、ついたつきましたよ。 どう?凄いにおいでしょ。シートめくるからね。
ちょっとさがってて。 あっ、ごめん、びっくりしたでしょ。
この羽虫、蠅、すごいでしょ。 こればっかりはどうしょも無い。あっ、しゃがみこんでる、無理もないよなぁ、 このにおいじゃなぁ。
おおい、大丈夫か。じゃないだろうな。いったん帰ろうか。
なにっ、大丈夫、さすが姉御と呼ばれただけのことはある。でも無理しないで。
・・・で、手短に観察しよう。やはり骨格からみるとウマ科だと解るよね。
内蔵は液状になって、とっくに流れ出してる。眼球も同じ。そこが眼窩。
皮膚組織はほとんど崩れかかっている。はやめに採集しといてよかったよなぁ。
この馬が生きていたときは、このあたりはまだ緑の草原で、思い切り 駆け回っていたんだろうな。だから、歯は草食性のそれ。で性別は判定不能。 死亡原因は不明。
この川辺に乗り上げなければ、きっと海まで流れていってしまっていた事だろう。

・・・ 最初に言ったろう、死んだ後、禿げワシに襲われたんじゃないかって、
そう思わせたのがこれだ。

この馬の背中を見てくれ。これがこの馬の一番の特徴だ。

この馬は、全然別のものなんだ。

の手を握ってくれ。
今、君に言える。
嘘じゃないんだ。

が好きだ。

この馬がこれを言う勇気を、与えてくれたんだ。

さあ、この馬の背中をよく見てくれ。


素晴らしいじゃないか!!!


このの背中には

翼がはえていたんだ!!!










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